結論:建設業の事業承継で認可を受ければ、許可も経営事項審査の結果も承継先に引き継がれます。ここまでは制度が自動で処理してくれます。
ところが公共工事の入札参加資格者名簿は自動では動きません。会社側から「再審査の申請」をしない限り、名簿上の会社は承継元のままです。
そして相続では、許可の「死亡後30日以内」と、入札参加資格の「死亡から90日で名簿抹消」という別々の時計が同時に走ります。
建設業の事業承継には、性格の違う期限が並んで走ります。
事業譲渡・合併・分割は効力発生日より前に認可を受けること。相続は死亡後30日以内に認可を申請すること。経営事項審査の総合評定値通知は審査基準日から1年7か月で切れること。
ここに、意外と知られていないもう1つの期限が加わります。埼玉県の入札参加資格では、事業主の死亡または法人の解散から90日を経過すると名簿から抹消されます。
許可の承継は行政庁が処理してくれても、入札参加資格者名簿は別の役所が別の規則で管理しています。この記事は、その「引き継がれない部分」を、一次資料の原文に当たりながら手順に落とします。
目次
承継認可で引き継げるもの、引き継げないもの

最初に全体像を整理します。建設業法第17条の2(事業譲渡・合併・分割)と第17条の3(相続)による認可を受けると、承継先は承継元の「建設業者としての地位」を承継します。
この「地位」の中身について、埼玉県の建設業許可申請・届出の手引きは踏み込んだ書き方をしています。
「建設業者としての地位」とは、建設業の許可を受けたことによって発生する権利と義務の総体をさします。これには、承継元が受けていた許可だけではなく、承継元が受けた監督処分や経営事項審査の結果についても、当然に含みます。
(埼玉県 建設業許可申請・届出の手引き 令和8年4月版 第12章 P.166)
つまり経審のP点は、承継のたびにゼロから積み直すものではありません。監督処分という不利益も一緒についてくる、という点も含めて「総体」です。
一方で、承継されないものもあります。整理すると次のようになります。
| 項目 | 承継認可で自動的に移るか | 根拠・備考 |
|---|---|---|
| 建設業許可(業種・一般/特定) | 移る | 建設業法第17条の2・第17条の3 |
| 経営事項審査の結果(P点) | 移る | 埼玉県手引き P.166「当然に含みます」 |
| 承継元が受けた監督処分 | 移る | 同上。不利益も承継対象 |
| 建設業法上の罰則 | 移らない | 違法行為を実際に行った者に適用されるため |
| 公共工事の入札参加資格者名簿の登載 | 移らない | 発注者ごとに再審査の申請が必要 |
| 入札参加資格の等級(格付) | 移らない | 各発注者が経審結果をもとに判断 |
表の下半分が、この記事の主題です。
許可の承継が終わった時点で「これで公共工事も続けられる」と考えてしまうと、名簿上は承継元の会社名のまま入札公告の日を迎えることになります。
なぜ入札参加資格は自動で移らないのか

理由はシンプルで、管理している役所が違うからです。
建設業許可と経営事項審査を所管するのは、埼玉県では県土整備部建設管理課の建設業担当です(電話048-830-5176)。2以上の都道府県に営業所がある場合は国土交通省関東地方整備局が所管します。
これに対して競争入札参加資格を審査するのは、埼玉県では総務部入札審査課です。同じ県庁でも部が違い、根拠となる規程も、審査のサイクルも別に動いています。
市町村になると、さらに独立性が強まります。各市町村はそれぞれ自前の規則で入札参加資格を定めており、等級区分の数も名称も市ごとに異なります。
言い方を変えると、承継認可は「建設業者としての資格」を動かす手続きであり、入札参加資格の再審査は「特定の発注者の取引先リストの登録内容」を動かす手続きです。レイヤーが違うので、片方が終わってももう片方は残ります。
この構造は、承継を経験する会社が少ないために社内に知見が蓄積されにくい領域でもあります。建設業はもともと制度情報が現場まで届くのに時間のかかる業界です。だからこそ、知っているかどうかだけで結果が変わります。
埼玉県の実務|共同受付窓口への「再審査申請」が入口

埼玉県内の発注者については、入口が一本化されています。
埼玉県電子入札共同システムは、埼玉県・県内62市町村・一部事務組合5組合が共同で運営しているしくみです。競争入札参加資格の申請は、この共同受付窓口でまとめて受け付けられます。
承継時の取扱いは、申請の手引に明記されています。
相続、合併、分割又は事業譲渡により、入札参加資格者から当該営業の一切を承継し、競争入札参加資格を承継しようとするときは、再審査の申請をしてください。
なお、再審査の申請に当たっては、事前に入札審査課審査担当に相談してください。
(埼玉県電子入札共同システム 令和7・8年度 建設工事請負等競争入札参加資格審査 申請の手引 P.41)
ポイントは2つあります。
1つは、承継の対象が「当該営業の一切」であること。建設業許可の承継認可も「建設業の全部」を承継することが要件なので、この点は許可側と考え方がそろっています。一部の業種だけを切り出す設計では、どちらの手続きも通りません。
2つ目は、「事前に相談」が明記されていることです。定期の資格審査を待つ必要はありませんが、必要書類は承継のスキームによって変わります。日程が固まってから相談するのでは遅い場面があります。
審査は2段階で行われる
共同受付には、もう1つ理解しておくべき構造があります。申請の手引は審査の流れを次のように定めています。
- 第1段階:共同受付窓口(埼玉県総務部入札審査課)が共通書類と一部の自治体別書類を審査する
- 第2段階:各自治体が個別に審査を実施する(申請先自治体固有の審査基準による)
窓口が1つでも、判断は自治体ごとです。ある市では登載されたのに、別の市では書類の追加を求められる——という差が出るのはこのためです。
共同受付窓口の連絡先は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 窓口 | 埼玉県 総務部 入札審査課 審査担当(工事) |
| 所在地 | さいたま市浦和区高砂3-15-1 |
| 電話 | 048-830-5771(平日8:30〜17:15) |
| 参加団体 | 埼玉県、県内62市町村、一部事務組合5組合 |
なお、国の機関や埼玉県以外の都道府県、共同受付に参加していない発注者に登録している場合は、それぞれの発注者の定めに従って別に手続きが必要になります。登録先の一覧を作るところから始めるのが確実です。
市町村の規則も別に動く|八潮市の規定を例に

共同受付で窓口が一本化されていても、名簿と等級を動かす判断そのものは各自治体にあります。市町村の規則を読むと、その独立性がはっきりわかります。
たとえば八潮市の規則には、承継についての条文が正面から置かれています。
相続、合併、分割又は事業譲渡により、資格審査の申請をした者から当該営業の一切を継承した者が、その参加資格を承継しようとするときは、市長が別に定める関係書類を添えて市長に再審査の申請を行わなければならない。
(八潮市建設工事等指名競争入札参加者の資格等に関する規則 平成4年12月28日規則第54号 第10条第1項)
「行わなければならない」という書き方です。申請しなければ動かない、という点が条文レベルで明確になっています。
格付についても、同じ規則が定めています。
市が発注する建設工事の入札参加資格については、経営事項審査の結果により、AA級、A級、B級及びC級の4級に区分して格付を行うものとする。
(同規則 第7条第1項)
等級区分の数も名称も市ごとに違います。八潮市はAA・A・B・Cの4級ですが、これを他市にそのまま当てはめることはできません。
承継を検討する段階で、自社が登録している市町村の例規集を実際に開くことをおすすめします。多くの自治体が例規をウェブで公開しており、「指名競争入札参加者の資格等に関する規則」といった名称で見つかります。
確認すべきは、承継・再審査の条と、格付の条の2か所です。この2条を読むだけで、承継後にどのタイミングで何が起きるかの見通しが立ちます。
相続の落とし穴|「30日」と「90日」という2つの時計

相続は、事業譲渡や合併と違って日程を選べません。だからこそ期限管理が難しくなります。
走り始める時計は2つあります。
| 期限 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 死亡後30日以内 | 建設業許可の承継の認可を申請する | 建設業法第17条の3 |
| 速やかに | 「事業主が死亡したとき又は法人が解散したとき」を入札審査課へ届け出る | 共同受付 申請の手引 P.41 |
| 死亡から90日 | 経過すると入札参加資格者名簿から抹消される | 共同受付 申請の手引 P.41 |
起算点はどちらも死亡日です。相続の開始を知った日ではありません。ここを取り違えると、30日の側が先に破綻します。
30日を1日でも超えると、承継の認可は受けられません。個人事業として建設業を続けるには新規の許可申請が必要になり、許可番号も許可の年月日も新しいものになります。
そして許可の承継が流れれば、経審の結果も引き継げません。経審が引き継げなければ、入札参加資格の要件そのものを満たせなくなります。90日を待たずに、実質的に公共工事から離脱することになります。
逆に、30日以内に認可申請を済ませたとしても、入札参加資格の側で何もしなければ90日で名簿から消えます。2つの期限は、どちらか一方をクリアすれば足りるという関係ではありません。
相続の実務では、まず死亡日を起点にカレンダーへ「30日」「90日」の2本の線を引くところから始めてください。詳しい認可手続きの流れは建設業許可の相続による承継で解説しています。
承継スケジュールに入札参加資格を組み込む手順

ここまでの内容を、実際の段取りに落とします。事業譲渡・合併・分割を前提とした流れです。
ステップ1:登録先の棚卸し(承継の6か月前〜)
自社がどの発注者の名簿に載っているかを一覧にします。埼玉県内の共同受付参加自治体、県外の発注者、国の機関、独立行政法人などを分けて書き出してください。
この一覧が、後の手続きの分量をそのまま決めます。共同受付でまとめられる部分と、個別対応が必要な部分の切り分けが最初の判断です。
ステップ2:許可行政庁と入札審査課の両方に事前相談(承継の3〜6か月前)
埼玉県の建設業許可申請・届出の手引きは、承継について事前相談を前提としています。手引きは「事前相談なく承継申請をされた場合、不備の補正等に時間がかかり、承継の事実が発生するまでに認可ができないおそれがあります」としています。
同時に、入札審査課審査担当にも再審査の相談を入れておきます。共同受付の手引が「事前に相談してください」と明記している以上、これは推奨ではなく手順の一部です。
ステップ3:承継認可の申請(事実発生日の30日前までに完了)
事業譲渡・合併・分割は「あらかじめ」認可を受ける必要があり、承継の事実が発生した後に遡って認可を受けることはできません。
埼玉県は運用として、次のように定めています。
遅くとも、承継の事実発生日の30日前までに申請を完了させてください。不足書類がある場合、受付は一切できません。
(埼玉県 建設業許可申請・届出の手引き 令和8年4月版 第12章 P.163)
これは「申請」の期限であって「認可」の期限ではありません。法令上の要件は効力発生日の前日までに認可を受けることであり、県の30日前ルールはそこから逆算した運用上の締切です。
なお埼玉県の承継認可は申請手数料がかかりません。ただし申請はすべて持参による受付で、郵送および電子申請は受け付けていません。
ステップ4:承継日を迎える(許可期間は「5年と1日」)
承継日から承継先の許可が有効になります。有効期間の起算点は承継の日の翌日であるため(建設業法第17条の2第7項)、最初の更新までの許可期間は5年と1日になります。
この1日のずれは、承継直後にカレンダーへ登録しておくべき数字です。更新の申請期限は有効期間が満了する日の30日前までなので、逆算の基準日が1日動きます。
ステップ5:入札参加資格の再審査を申請する(承継後すみやかに)
認可通知書と登記事項証明書がそろった段階で、共同受付窓口へ再審査を申請します。
ここで確認しておきたいのが経審の有効期限です。入札参加資格の要件は、申請日現在で審査基準日から1年7か月以内かつ有効な総合評定値の通知を受けていることです。
承継元の経審が承継直後に期限を迎えるスケジュールだと、再審査と経審の受け直しが重なります。承継日を決める段階で、承継元・承継先双方の審査基準日を確認しておくと事故が減ります。
ステップ6:承継後最初の経審を設計する
承継の時点ではP点が引き継がれますが、承継後に到来する決算では承継先として経審を受け直すことになります。
ここで完成工事高の年数計算や技術者数、自己資本の状況が変わり、等級が動く可能性があります。承継のスキームを決める段階から経審への影響を織り込んでおく話は、建設業の事業承継で経審スコアを途切れさせない方法で詳しく扱っています。
あわせて、令和8年7月1日施行の経審改正でCCUS加点や社会保険項目の配点が変わっています。承継後の初回経審は、新しい配点での受審になる点にも注意してください。
よくある質問(FAQ)
承継認可を受ければ、公共工事の入札参加資格も自動的に引き継がれますか?
引き継がれません。承継認可で移るのは建設業者としての地位(許可・経審の結果・監督処分を含む)であり、競争入札参加資格者名簿は各発注者が別に管理しています。
埼玉県電子入札共同システムの申請の手引は「競争入札参加資格を承継しようとするときは、再審査の申請をしてください」と定めています。会社側が申請しない限り、名簿は動きません。
再審査申請はどこに出せばよいのですか?
埼玉県内の発注者については、共同受付窓口である埼玉県総務部入札審査課 審査担当(工事)が入口です。共同受付窓口が第1段階の審査を行い、その後に各自治体が個別の審査を実施します。
県外の発注者や国の機関については、それぞれの定めに従って別に手続きが必要です。
再審査は定期の資格審査を待たなければなりませんか?
承継は定期の資格審査とは別の「再審査」として扱われます。八潮市の規則は、再審査について「審査委員会における審議に代えて、当該再審査前になされている資格審査の結果及び第7条に規定する格付の基準を用いて随時行うものとする」と定めています(第10条第3項)。
ただし取扱いと所要期間は自治体によって異なります。共同受付の手引も事前相談を求めているため、見込みは相談の際に確認してください。
相続の「30日」と「90日」は、どちらも死亡日から数えるのですか?
どちらも死亡日が起算点です。相続の開始を知った日ではありません。
建設業法第17条の3は「被相続人の死亡後三十日以内」と定めており、共同受付の手引も「事業主の死亡又は法人の解散から90日を経過したとき」を名簿抹消の事由としています。
承継で入札参加資格の等級は下がりますか?
承継そのもので機械的に下がるわけではありません。等級は各発注者が経審の結果をもとに決めており、承継認可を受ければその時点のP点が土台になります。
動く可能性があるのは、承継後に承継先として初めて受ける経審のタイミングです。完成工事高の計算や技術者の在籍状況が変われば、結果として等級も変わります。
建設業許可さえあれば入札参加資格の登録はできますか?
できません。埼玉県の共同受付では、申請する業種の建設業許可に加えて、申請日現在で審査基準日から1年7か月以内かつ有効な経営事項審査の総合評定値通知が必要です。
許可・経審・入札参加資格の3つは連鎖しています。どれか1つが切れると、下流がまとめて止まります。
一部の業種だけを譲渡して、その分の入札参加資格を移せますか?
できません。建設業許可の承継認可は「建設業の全部」を承継することが要件であり、入札参加資格の再審査も「当該営業の一切」を承継した場合が対象です。
一部の業種だけを切り出す設計を採るなら、承継認可も入札参加資格の承継も使えないことを前提に、譲受側で新規に許可・経審・入札参加資格を取得する道筋を検討することになります。
まとめ:引き継げる制度と、引き継げない名簿
事業承継の認可は、よくできた制度です。許可も経審のP点も、途切れさせずに次の代へ渡せます。
ただしその射程は、建設業法の世界で完結しています。発注者が持っている取引先リストまでは、法律が書き換えてくれません。
この差を埋めるのは、会社側から出す再審査の申請1本です。手続きとしては重いものではありません。難しいのは、その存在に気づくタイミングが承継の後になりがちだという点です。
やる気や気合いの問題ではなく、期限を並べた一覧表があるかどうかの問題です。許可の30日前、相続の30日以内、名簿抹消の90日、経審の1年7か月、更新の5年と1日——これらを1枚に並べれば、どこが最初に破れるかは自然に見えてきます。
承継の設計段階から入札参加資格を視野に入れておけば、受注を止めずに代を替えることは十分に可能です。自社の登録先の棚卸しから一緒に整理したい、という段階でも構いません。お気軽にご相談ください。
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本記事は2026年8月6日時点の法令・各行政庁の公表資料に基づいて作成しています。入札参加資格の取扱いは発注者ごとに異なり、規則の改正も行われます。実際の手続きにあたっては、必ず登録先の発注者および許可行政庁にご確認ください。