建設業の事業承継には、性質の違う締切が3つあります。これを1本のカレンダーに並べないと、どこかで必ず詰まります。

  • ①特例承継計画の提出:令和9年9月30日まで(中小企業庁)
  • ②贈与・相続の実行:令和9年12月31日まで(特例措置は10年間限定)
  • ③建設業許可の承継認可承継の事実発生日の30日前まで(相続のみ死亡後30日以内)

①と②の差はわずか3か月。そして③は遡れません。日付を決める順番が、そのまま成否を決めます。

この記事は、建設業の事業承継を「3つの締切を噛み合わせる作業」として整理します。

順番はこうです。まず3つの期限を個別に確認し、次に1本の逆算スケジュールに並べ、最後に順番を間違えたときに何が起きるかを見ます。

株価や税金の話は税理士の領域です。ここでは、許可を切らさずに承継を通すための日程設計に絞ります。

この記事でわかること:

  • 事業承継税制の特例措置に関する2つの期限と、その3か月のズレ
  • 建設業許可の承継認可が「事前しかない」という制度上の性質
  • 3つを噛み合わせた逆算スケジュールの組み方
  • 同じ県庁でも窓口が分かれている理由と、それぞれの連絡先
  • 順番を間違えたときに実際に起きること(許可・入札の両面)

建設業の事業承継には、時計が3つ動いている

3本の平行な線路が遠くへ延びる俯瞰。事業承継では性質の違う3つの期限が同時に走る

事業承継の相談で最初に共有するのが、この図式です。

締切 期限 性質 所管
①特例承継計画の提出 令和9年9月30日 制度の入口。出しておかないと特例措置を選べない 都道府県(産業労働部門)
②贈与・相続の実行 令和9年12月31日 10年間限定の特例措置の適用期間の終わり 税務署・税理士
③建設業許可の承継認可 承継の事実発生日の30日前
(相続は死亡後30日以内)
事前認可。遡っての認可はない 都道府県(建設部門)

厄介なのは、この3つがまったく別の役所・別の専門家の管轄だという点です。

税理士は①②を見ています。行政書士は③を見ています。金融機関は資金を見ています。

全部を1枚のカレンダーに並べる人が、実は誰もいないまま話が進むことがあります。

そして最後に日付を握っているのは③です。ここだけはあとから帳尻を合わせられないからです。

締切①|特例承継計画は令和9年9月30日まで

無地の書類を抱えて庁舎の階段を上る作業ジャンパーの男性の後ろ姿。特例承継計画は都道府県に提出する

法人版事業承継税制の特例措置を使うには、事前に「特例承継計画」を都道府県に提出しておく必要があります。

中小企業庁の案内では、平成30年4月1日から令和9年9月30日までに提出することとされています。

計画に書くのは、後継者の氏名、事業承継の予定時期、承継時までの経営の見通し、承継後5年間の事業計画などです。作文だけでは済みません。

その内容について、認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受ける必要があります。認定支援機関は税理士・金融機関・商工会などが登録しており、依頼から確認までに時間がかかります。

提出先は「県庁だが建設の窓口ではない」

埼玉県の場合、経営承継円滑化法の窓口は産業労働部 経営・金融支援課 経営革新支援担当(電話048-830-3912)です。

所在地はさいたま市浦和区高砂3-15-1の埼玉県庁 本庁舎5階。受付時間は平日の午前8時30分〜12時、午後1時〜5時です。

窓口での申請・相談を希望する場合は事前に電話で予約するよう案内されています。熊谷サテライトオフィスでも対応しています。

締切②|贈与・相続の実行は令和9年12月31日まで

一列に並んだ無地のドミノの中で1か所だけ間隔が広い。計画の提出期限と実行期限の3か月の差

計画を出しただけでは、税制は動きません。実際に株式を動かす必要があります。

特例措置は10年間限定の制度です。対象になるのは、特例承継計画を提出した事業者で、平成30年1月1日から令和9年12月31日までに贈与・相続により会社の株式を取得した経営者です。

ここで、さきほどの①と並べてみてください。計画の提出が令和9年9月30日、実行が令和9年12月31日。差は3か月しかありません。

「まず計画だけ出しておいて、実行はゆっくり考える」という進め方は、この時期になると成立しないということです。

特例と一般では条件が違う

間に合わなかった場合に何も残らないわけではありません。一般措置があります。ただし条件は変わります。

項目 特例措置 一般措置
納税猶予の割合 100% 相続等80%、贈与100%
対象株数 全株式 総株式数の最大3分の2まで
適用期限 あり(令和9年12月31日まで) なし

相続で猶予される割合が80%と100%では、手元に必要な現金が変わります。これは会社の資金繰りの話です。

なお税制の適用可否や有利不利の判断は税理士の領域です。この記事では期限の並びだけを扱います。

締切③|許可の承継認可は「事前」しかない

波が引いたあとの砂浜に一方向だけ続く足跡。承継認可は事後に遡って受けることができない

ここからが本題です。建設業許可の承継は、税制とはまったく違う時間軸で動きます。

埼玉県の手引き(令和8年4月施行版)第12章には、相続以外の承継(事業譲渡・合併・分割)について、「あらかじめ」認可を受ける必要があると書かれています。

そして承継の事実が発生した後に遡って認可することはできないと明記されています。ここが税制と決定的に違う点です。

遅くとも、承継の事実発生日の30日前までに申請を完了させてください。不足書類がある場合、受付は一切できません。

「受付は一切できません」という書きぶりに注目してください。書類が1枚足りなければ、その日は受付日になりません。30日前という期限は、書類が完全に揃った状態での話です。

相続だけは事後、ただし30日以内

相続は例外です。人の死亡は事前に予定できないため、被相続人(許可を受けている事業主)の死亡後30日以内に申請します。

ただし30日という期間は、実務では驚くほど短いものです。葬儀と並行して、戸籍・遺産分割の方向性・後継者の要件確認を進めることになります。

事前相談は実質的に必須

手引きは、承継申請を行おうとするときは事前に建設管理課建設業担当の窓口で相談するよう求めています。

理由も書かれています。事前相談なく承継申請をした場合、不備の補正等に時間がかかり、承継の事実が発生するまでに認可ができないおそれがあるためです。

つまり「30日前に申請」の前に「事前相談」という工程が挟まります。逆算の起点は、承継日の30日前ではなく、そのさらに手前です。

認可を申請しないと、いったん切れる

承継認可を使わない道もあります。ただし代償があります。

手引きは、①個人事業主の死亡等により個人(子等)が事業を承継したとき、②個人事業から法人化(またはその逆)したとき、③法人を解散(合併)して新たに法人を設立したとき——これらで事業承継の認可を申請しないのであれば、30日以内に廃業届を提出し、新たに許可を申請してくださいとしています。

新規申請ということは、許可番号も、そこに紐づく実績の見え方も切り替わります。手数料も新規と同額です。承継認可を「使わない」判断は、想像以上に高くつきます。

3つを1本の線に並べると、逆算はこうなる

机に並べた無地のカードの順番を入れ替える建設会社の2人。締切から逆算して日程を組み直す

では実際に、令和9年中に承継を完了させる前提で並べてみます。

時期 やること 相手
着手時 後継者の確定。承継の方式(譲渡・合併・分割・相続)を決める 社内・税理士・行政書士
計画づくり 認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けて特例承継計画を作る 認定支援機関
承継日の数か月前 承継認可の事前相談。要件と必要書類を確定する 県 建設管理課
令和9年9月30日まで 特例承継計画を提出 県 経営・金融支援課
承継日の30日前まで 承継認可の申請を完了(書類の不足なし) 県 建設管理課
令和9年12月31日まで 贈与・相続を実行 税理士・税務署
承継後 入札参加資格の再審査、各種変更届 県・各市町村

この表で一番きついのは、令和9年10月〜12月に3つの工程が重なることです。計画の提出期限、承継認可の申請、そして贈与・相続の実行。

年末は、どの役所も専門家も混みます。ここに全部を寄せる設計は、それ自体がリスクです。

建設業はIT化も人手も足りていない業界だと言われます。ただ、この種の失敗はやる気や人手の問題ではありません。期限の一覧表を1枚作るかどうかだけの差です。

順番を間違えると、何が起きるか

かみ合う2つの歯車と、軸から外れて横に転がった歯車。順番を間違えると手続きが噛み合わなくなる

実際に起きうる詰まり方を3つ挙げます。

ケース1:契約日を先に決めてしまう

「来月1日付で譲渡」と契約書の日付が固まった状態で相談に来られるケースです。

承継認可は遡れないので、その日付では間に合いません。日付をずらす交渉から始めることになり、金融機関や取引先との調整も巻き戻ります。

ケース2:株は移ったが、許可が繋がっていない

税務のスケジュールを優先して株式を先に動かし、許可の承継認可が後回しになるパターンです。

会社の形は変わったのに許可の主体が整理できていないと、工期の途中で契約主体の説明がつかなくなります。元請から見れば、許可の連続性は取引の前提です。

ケース3:許可は繋がったが、入札の名簿が動いていない

意外に多いのがこれです。県から承継の認可を受けても、市町村の入札参加資格は自動的に引き継がれません

合併・分割・営業譲渡等は「再審査」として扱われるのが一般的で、その手続きと期限の設計は自治体ごとにまったく違います。90日以内と定める市もあれば、日数を示さず「速やかに」とする市もあります。

許可は繋がったのに、公共工事の名簿からは消えていた——という事故は、この隙間で起きます。

誰に何を頼むかを、先に決めておく

無人の会議室に円形に並ぶ4脚の異なる椅子。税理士・支援機関・行政書士・金融機関の役割分担

3つの締切は、担当者も3方向に分かれます。着手の前に分担を決めておくと、抜けが減ります。

担当 主な役割
税理士 株価の評価、税制の適用可否、贈与・相続の実行時期の設計
認定経営革新等支援機関 特例承継計画への指導・助言(税理士や金融機関が兼ねることが多い)
行政書士 承継認可の要件確認・事前相談・申請書類の作成、経審と入札参加資格の再審査
金融機関 資金調達、経営者保証の取扱い

ここで抜けやすいのが、承継後の経営事項審査と入札参加資格です。株の話が終わった時点で「承継は完了した」と考えてしまうためです。

公共工事を受注してきた会社ほど、ここを落とすと売上に直結します。経審の結果は承継の対象に含まれる一方で、発注者ごとの登録は別建てだからです。

建設業の事業承継の期限に関するよくある質問(FAQ)

Q1. 特例承継計画の提出期限はいつですか?

中小企業庁の案内では、平成30年4月1日から令和9年9月30日までに都道府県へ提出することとされています。認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けたうえで作成します。

Q2. 計画を出せば、贈与・相続はいつでもよいのですか?

いいえ。特例措置は10年間限定で、対象は平成30年1月1日から令和9年12月31日までに贈与・相続で株式を取得した場合です。計画の期限との差は3か月しかありません。

Q3. 建設業許可の承継認可はいつまでに申請しますか?

事業譲渡・合併・分割は事前認可で、埼玉県は承継の事実発生日の30日前までに申請を完了させるよう求めています。不足書類があると受付ができません。相続は死亡後30日以内です。

期限は許可行政庁ごとに異なるため、申請先の手引きで確認してください。

Q4. 承継認可を使わないとどうなりますか?

認可を申請しない場合、埼玉県の手引きは30日以内に廃業届を出し、新たに許可を申請するよう案内しています。許可番号は引き継げず、新規申請の手数料がかかります。

Q5. 税制の窓口と許可の窓口は同じですか?

違います。埼玉県では、経営承継円滑化法の認定は産業労働部 経営・金融支援課(048-830-3912/県庁本庁舎5階)、建設業許可と承継認可は県土整備部 建設管理課(048-830-5176/5177)です。

Q6. 特例に間に合わなければ、もう使えませんか?

一般措置は残ります。国税庁の説明では一般措置に適用期限はありませんが、猶予割合は相続等で80%、対象株数は総株式数の最大3分の2までです。判断は税理士にご相談ください。

Q7. 入札参加資格はどうなりますか?

自動では引き継がれません。合併・分割・営業譲渡等は再審査として扱われるのが一般的で、手続きと期限は自治体ごとに異なります。承継の日程を決める段階で、発注者側の手当てもセットで組んでください。

まとめ:日付は、いちばん動かせないものから決める

3つの締切を再掲します。

  • 特例承継計画の提出=令和9年9月30日まで(認定支援機関の指導・助言が前提)
  • 贈与・相続の実行=令和9年12月31日まで(特例措置は10年間限定・計画期限との差は3か月)
  • 許可の承継認可=承継の事実発生日の30日前まで(相続は死亡後30日以内・遡及不可)

この3つのうち、交渉や工夫で動かせないのは3つ目です。税務のスケジュールは調整の余地がありますが、承継認可は制度として遡れません

だから日程は、いちばん硬いところから決めるのが正解です。承継日を決め、その30日前に申請完了を置き、さらに手前に事前相談を置く。税務の日程はそこに合わせる。

当事務所は朝霞市・志木市・新座市を拠点に、埼玉県の建設業者の許可・経審・入札を支援しています。税理士の先生と並走する形での関与も日常的に行っています。

後継者が決まった段階、あるいは相手先が見えた段階で、一度カレンダーを一緒に引きましょう。契約書に日付を書き込む前であれば、打てる手はまだ十分に残っています。

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参考にした一次情報

  • 中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」特例承継計画の提出期限・10年間限定の適用期間(中小企業庁公式サイト
  • 国税庁 タックスアンサーNo.4148「非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)」特例措置と一般措置の比較(国税庁公式サイト
  • 埼玉県「経営承継円滑化法について」窓口・受付時間・事前予約(埼玉県公式サイト
  • 埼玉県「建設業許可申請・届出の手引き(令和8年4月施行版)」第12章 許可の承継(埼玉県公式サイト
  • e-Gov 法令検索「建設業法」第17条の2・第17条の3(条文

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