最終更新日:2026年4月21日|建設業法第7条第1号、建設業法施行規則第7条(令和2年10月1日改正施行版)対応
「役員としての経験が5年に1年足りない」「経管候補が辞めてしまった」「準ずる地位で申請できると聞いたが書類が揃うか不安」——建設業許可の相談窓口で最も多いテーマのひとつが、経営業務の管理責任者(以下「経管」)です。技術者要件や財産的基礎は比較的客観的に判定できるのに対し、経管は建設業法第7条第1号および同法施行規則第7条に基づき、過去の職歴・権限・常勤性を書類で立証する必要があるため、実務で詰まりやすい論点が集中しています。
2020年10月(令和2年10月1日)に施行された改正建設業法および同法施行規則第7条により、従来の個人要件に加えて「常勤役員等+補佐体制」という組織的な要件充足ルートが整備されたとされます。この改正で間口は広がった一方、どのルートを選び、何をどう立証するかの判断は以前より複雑になっています。
この記事は、建設業許可の新規取得を検討している経営者・個人事業主、代表者交代に直面している既存許可業者、行政書士に依頼する前に要件を自分で把握したい実務担当者のために書かれています。経管固有の論点に絞り、緩和後の実務、経験年数パターン、準ずる地位の立証、証明書類のチェックリストまでを一気通貫で整理します。
この記事でわかること:
- 経営業務の管理責任者の法的定義と、令和2年改正で何が変わったか
- 5年・6年・執行役員+役員の組み合わせなど経験年数パターンの整理
- 常勤役員等+補佐体制(いわゆる「緩和ルート」)の実務運用
- 経管 証明書類の完全チェックリスト(登記簿謄本・確定申告書・工事契約書等)
- 経営業務の管理責任者に準ずる地位の立証方法と落とし穴
- 経管不在・交代時の対応と変更届の実務
目次
経営業務の管理責任者とは|建設業法第7条第1号の位置づけ
経営業務の管理責任者とは、建設業法第7条第1号および建設業法施行規則第7条に根拠を持つ、建設業者が備えるべき経営管理能力を担保するための人的要件です。建設工事の請負契約は工期が長く、金額も大きく、下請・施主・金融機関など利害関係者が多いため、経営判断を誤れば社会的損失が甚大になりうるという前提のもと、経営経験を有する者の常勤配置が義務付けられています。
経管は、しばしば建設業許可取得における最大の関門と呼ばれます。理由は次の3点に集約されます。
- 過去の事実を書類で再現する必要がある——技術者資格のように試験合格証で完結しない
- 常勤性の立証が厳格——他社との兼務や遠隔地居住は原則として認められない
- 年齢・健康リスクに直結する——要件を満たせる人材が社内に1人しかいないと事業継続リスクになる
なお、建設業許可に必要な5つの要件の全体像については「建設業許可の要件とは?取得に必要な5つの条件」で解説しているため、本稿では経管固有の深掘りに集中します。技術者要件については「主任技術者・監理技術者の要件」を参照してください。
令和2年10月改正で何が変わったか|常勤役員等+補佐体制の導入
建設業許可 経営業務の管理責任者 緩和として最も重要なのが、令和2年(2020年)10月1日施行の改正です。改正前は「5年以上の経営業務の管理責任者としての経験」等を満たす個人を1名配置することが原則でしたが、改正後は建設業法施行規則第7条に基づき、常勤役員等の個人要件を満たすルートと、常勤役員等+補佐体制のルートのいずれかで要件を充足できる構成に再編されたとされます(運用の詳細は国土交通省「建設業の許可」の手引きで確認できます)。
| ルート | 概要 | 主な対象 |
|---|---|---|
| ルートA:個人要件型 | 建設業に関し5年以上の役員等経験を持つ常勤役員等を1名配置 | 代表者自身が長年経営してきた法人・個人事業主 |
| ルートB:準ずる地位型 | 一定期間の「経営業務の管理責任者に準ずる地位」での経験で代替 | 執行役員・次長クラスから代表に昇格したケース |
| ルートC:常勤役員等+補佐体制型 | 経営経験の短い常勤役員等を、財務・労務・運営を担当する直接補佐者で補完 | 若手経営者、事業承継直後、役員経験が短い後継者 |
ルートCでは、常勤役員等1名+当該役員を直接に補佐する者(財務管理、労務管理、業務運営を担当する補佐者)を組み合わせます。補佐者は複数名で兼務することも可能とされますが、「直接補佐」の実態を組織図や業務分掌規程で示す必要があり、運用は自治体により異なるため事前照会が不可欠です。
経管の経験年数要件を整理する|5年・6年・組み合わせ
実務で最も混乱しやすいのが経管 要件の「何年の、どんな経験が必要か」という点です。建設業法施行規則第7条第1号に沿って整理すると、以下のパターンに集約されます。
| パターン | 必要な経験 | 実務上の典型例 |
|---|---|---|
| ① 役員等5年 | 建設業に関し5年以上の役員等(取締役、執行役、業務執行社員等)としての経営経験 | 建設会社の取締役を5年超務めた者が独立・代表就任 |
| ② 役員等に準ずる地位5年 | 建設業に関し5年以上、役員等に次ぐ地位(執行役員等)で業務執行権限の委任を受けた経営経験 | 執行役員として建設事業部を5年以上統括 |
| ③ 準ずる地位6年(補佐経験) | 建設業に関し6年以上、経営業務を補佐する立場での経験 | 代表の配偶者・後継者として経営補佐に6年以上従事 |
| ④ 執行役員等2年+役員3年の組合せ | 準ずる地位での経験と役員経験を合算して5年以上(運用は自治体により異なる) | 執行役員2年を経て取締役に昇格し3年経過した後継者 |
| ⑤ 常勤役員等+補佐体制(ルートC) | 2年以上の役員等経験者を常勤役員等とし、財務・労務・運営を担当する直接補佐者を配置 | 事業承継直後の若手代表が、補佐者2〜3名と体制を構築 |
注意すべきは、「建設業に関し」という限定がすべてのパターンに付く点です。たとえば飲食業の役員経験5年は、いくら長くても経管の年数としてはカウントされません。なお2020年改正により、許可を受けたい業種と同じ業種での経験である必要はなく、建設業全般での経営経験があれば業種を問わず要件を満たすと整理されたとされます(詳細は自治体の手引きを参照)。
経営業務の管理責任者に準ずる地位とは|立証のポイント
経営業務の管理責任者に準ずる地位は、役員そのものではないが経営に実質的に関与していた地位を指すとされ、上記パターン②〜④で使われます。審査で「役員でもないのに経営経験と認めてよいか」を判断するため、次の3要素の立証が中心になります。
- 地位の客観性——執行役員規程、組織図、人事発令書等で、役員に次ぐ地位にあったことを示す
- 権限の実在——業務分掌規程、取締役会議事録、稟議規程等で、業務執行権限が委任されていたことを示す
- 経験の継続性——在籍期間中の建設業への関与を、工事契約書・決裁書類・営業所長名での対外文書等で示す
単に「部長だった」「支店長だった」という職名だけでは準ずる地位として認められにくく、権限と責任が書面で追えるかが成否を分けます。執行役員規程や業務分掌規程が未整備の中小企業では、取締役会議事録の抜粋や人事発令書の写しで補完する運用が一般的とされますが、自治体により求める書類は異なります。
経管 証明書類チェックリスト|審査で通る書類の揃え方
経管要件の審査で落ちる最大の原因は、書類の不足・不整合です。経管 証明書類は「地位」「経験」「常勤性」の3カテゴリで揃えるのが鉄則です。以下は実務で用いる代表的なチェックリストです(必要書類は自治体により異なるため、申請先の手引きを最終確認してください)。
| カテゴリ | 書類 | 立証する内容 |
|---|---|---|
| 地位 | 商業登記簿謄本(履歴事項全部証明書) | 役員就任・退任の年月日、在任期間 |
| 定款、執行役員規程、業務分掌規程 | 役員・執行役員の権限範囲 | |
| 組織図、人事発令書 | 準ずる地位・補佐者の位置づけ | |
| 取締役会議事録、稟議決裁書類 | 経営意思決定への関与 | |
| 経験(建設業の実態) | 確定申告書(法人税・所得税)5期〜7期分 | 在任期間中に建設業を継続して営んでいたこと |
| 工事請負契約書、注文書・請書 | 建設業としての取引の実在 | |
| 請求書控え、入金が確認できる通帳写し | 請負金額の受領と工事完了 | |
| 建設業許可通知書の写し(過去に許可があった場合) | 許可業者としての経営経験 | |
| 決算書、事業報告書 | 建設業売上の連続性 | |
| 常勤性 | 健康保険被保険者証(事業所名入り) | 社会保険加入による常勤 |
| 住民票、通勤経路図 | 営業所への通勤可能性 | |
| 標準報酬月額決定通知書、賃金台帳 | 継続的な給与支払 | |
| 雇用保険被保険者資格取得等確認通知書 | 他社との兼務がないこと |
特に過去に建設業許可を取得していない法人・個人事業主の場合、確定申告書と工事契約書のセット提示が中心になります。確定申告書の事業種別欄が「建設業」と明記されているか、工事契約書の日付と確定申告書の期間が整合しているかを事前に確認してください。通帳写しは、契約書に記載された請負金額と入金額が一致するかを審査官が照合するため、入金のマーカーと契約書の突合が用意できていると通りやすくなります。
常勤性の立証で詰まりやすいポイント
経管の要件で意外と見落とされがちなのが常勤役員等としての常勤性です。以下の状況では、書類が揃っていても追加説明を求められることが多いとされます。
- 他社の役員を兼務している——登記上の役員兼務は原則認められず、非常勤化か退任が求められる
- 遠距離通勤——営業所まで片道2時間超などは個別確認の対象になりやすい
- 代表者が高齢・療養中——実質的に常勤できない疑義があると追加資料を求められる
- 社会保険未加入——令和2年改正以降、社会保険加入が許可要件として整理され、常勤性の重要な証拠となる
建設業許可では社会保険加入が要件化されており、健康保険・厚生年金・雇用保険の加入状況は常勤性の裏付けとして重視されます。個人事業主で国民健康保険の場合は、住民票や公共料金の支払実績などで補完する運用が一般的とされます。
経管交代・不在時の実務|変更届と取消リスク
経管は建設業許可の必須要件であるため、退任・死亡・辞職等で不在になると許可の取消事由になりうるとされます。建設業法および同法施行規則に基づき、変更があった日から2週間以内に変更届出書を提出することが求められます(様式・添付書類は自治体により異なる)。
令和2年改正以降は、後任の個人要件者を確保できなくても、常勤役員等+補佐体制に切り替えて体制を維持する選択肢が広がりました。しかし切替えには補佐者の人選、業務分掌規程の整備、組織図の作り込みが必要で、急な対応は現実的に難しい場面が多いのが実情です。経管候補は2名以上確保しておく、あるいは事業承継計画の中で経管要件の引継ぎを設計しておくことが、許可の安定運用に直結します。
許可が取り消された場合のリスクは、「建設業許可が不承認になる理由と対策」「無許可営業の罰則」もあわせて確認してください。なお、経管の要件を充足しても欠格事由に該当する場合は許可されないため、欠格要件の詳細は別途チェックが必要です。
申請前セルフチェック|つまずきを回避する10項目
書類の作成に入る前に、以下を自己点検することで後戻りを大幅に減らせます。
- 経管候補者の役員就任日・退任日が登記簿で明確に追えるか
- 役員在任中の建設業売上が確定申告書で連続して確認できるか
- 工事請負契約書・注文書・請書が在任期間と整合しているか
- 候補者が他社の役員を兼務していないか(登記の読み合わせを実施済みか)
- 社会保険(健康保険・厚生年金)に加入しているか
- 営業所までの通勤が現実的な距離・時間か
- ルートC利用の場合、補佐者の担当領域(財務・労務・運営)が割り振られているか
- 執行役員・準ずる地位を用いる場合、権限を示す規程類が整備されているか
- 経管候補が欠格要件(禁錮以上の刑等)に該当しないか
- 経管と営業所技術者等を兼任する場合、双方の要件を同時に満たしているか
10項目のうち1つでも「不明」「怪しい」があれば、申請書作成前に許可行政庁の事前相談窓口か行政書士に相談することをおすすめします。書類を作ってから足りないことに気づくより、方針設計の段階で穴を見つけるほうが圧倒的に短期間で許可に到達できます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 経管の経験年数は建設業以外でもカウントされますか?
カウントされません。建設業法施行規則第7条は「建設業に関し」の経営経験を求めており、飲食業・製造業・サービス業などの役員経験は年数に算入できないとされます。兼業していた法人の場合でも、建設業売上が連続していたことを確定申告書で示す必要があります。
Q2. 個人事業主としての経験は経管の年数に使えますか?
使えるとされます。個人事業主として建設業を営んでいた期間は、確定申告書(所得税、事業所得、建設業と明記)と工事契約書等で立証できれば、経営業務の管理責任者としての経験期間に算入する運用が一般的です。事業税の納税証明書で補完するケースもあります。
Q3. 経管と営業所技術者等は兼任できますか?
兼任できるとされます。要件を両方満たしていれば、同一人物が経管と営業所技術者等を兼ねることは可能です。ただし常勤性は1営業所に限られるため、複数営業所を設ける場合は兼任できる人数が制約になります。技術者側の要件は「主任技術者・監理技術者の要件」を参照してください。
Q4. 役員ではなく「個人事業主の専従者」だった期間は経管の経験になりますか?
原則として、単なる専従者(家族従業員)の期間は経営経験にはあたらないとされます。ただし、事業主から業務執行の委任を受けていた事実や、重要な意思決定に関与していた事実を客観資料で示せれば、準ずる地位として評価されうる余地があります。自治体により判断が分かれるため、事前相談が重要です。
Q5. 常勤役員等+補佐体制の補佐者は、何人必要ですか?
補佐者は財務管理・労務管理・業務運営の各分野を直接補佐するとされ、1人が複数分野を兼務することも可能と整理されるのが一般的です。ただし、各分野について「5年以上の経験を有する者」が要件とされる運用が多く、分野ごとの在任期間を証明する書類(人事発令書、担当業務記録等)が求められます。自治体によっては別途細則を設けているため、申請先の手引きの確認が不可欠です。
まとめ|経管は「ルート選び」と「書類の突合」が9割
建設業許可で最大の関門とされる経管は、令和2年改正で常勤役員等+補佐体制という選択肢が増え、間口は広がりました。一方で、どのルートを選ぶか、選んだルートで何を立証するかの設計が以前より重要になっています。
実務で通る経管申請の共通項は次の3つに尽きます。
- 経験の可視化——登記簿・確定申告書・工事契約書を時系列で突合できる状態にする
- 常勤性の裏付け——社会保険、住民票、通勤経路で「この営業所に毎日いる」ことを示す
- 権限の書面化——準ずる地位・補佐体制を使うなら、規程・組織図・議事録で権限を可視化する
経管は退任・交代時に突然の問題として表面化しやすい論点です。許可取得時だけでなく、取得後の体制維持まで見据えて、候補者の複線化と書類の継続整備を進めることをおすすめします。判断に迷うケースは、申請前に行政書士や許可行政庁への事前相談を活用してください。