「グループ内の建設業部門だけを別会社に切り出したい」「不採算の不動産部門を分けて、建設業だけを後継者に継がせたい」「買収先の欲しい事業だけを会社分割で取得し、簿外債務は引き継ぎたくない」——中堅以上の建設業者の経営者やM&Aを検討する買い手から、こうしたご相談を受けます。会社分割は、事業を選別して切り出せる柔軟なスキームですが、建設業では「許可・経審・労働承継・取引契約」が同時に動くため、会社法だけで設計すると重大な落とし穴にはまります。
本記事は建設業の会社分割を、吸収分割と新設分割のスキーム選択から、建設業許可の承継認可(事前認可)、会社分割に特有の労働契約承継法の手続き、分割後の経審の継続評価、債権者保護手続き、建設業特有の法務リスクまで一気通貫で解説します。会社分割は譲渡・合併・相続と並ぶ建設業許可の承継認可4類型の1つでありながら、最も誤解されやすいスキームです。世間で語られる「会社分割は簿外債務を遮断できてクリーン」という単純化が、建設業でなぜ危険なのかを含め、率直な実務評価を提示します。
※令和6年(2024年)12月13日施行の改正建設業法により「専任技術者」は「営業所技術者等」に改称されました。本記事では検索ニーズを考慮し旧称も併記しています。
この記事は次の方に向けて書かれています:
- グループ内の建設業部門を別会社に切り出して再編したい中堅事業者の経営者・財務担当
- 不採算部門を分離し、建設業を後継者に承継しやすくしたい経営者
- M&Aで建設会社の特定事業だけを会社分割で取得したい買い手
- 会計事務所・税理士・コンサルから会社分割を提案されているが、建設業特有の許可・経審・労務の論点を整理したい担当者
この記事でわかること:
- 吸収分割と新設分割の違いと、建設業でどちらを選ぶかの判断軸
- 建設業で会社分割を使う4つの典型場面と、事業譲渡・合併との使い分け
- 建設業許可の承継認可(事前認可)の手続きと法定期限
- 会社分割に特有の労働契約承継法(5条協議・7条措置・異議申出)
- 分割後の経審の完成工事高・技術職員数の承継ルール
- 経営業務管理責任者・営業所技術者等の引き継ぎ設計
- 会社分割プロジェクトの全体スケジュール(標準6〜9か月)
- 会社分割を行政書士に依頼するメリットと費用感
| 結論(TL;DR) |
|---|
| 会社分割は事業を選別して包括承継できるスキームで、建設業では「許可事業だけ切り出す」「不採算部門を分離する」「簿外債務を遮断して欲しい事業だけ取得する」場面で使われる。建設業許可は自動では移らず、分割の効力発生日の前に承継認可(事前認可)を取得することが許可空白回避の絶対条件で、審査に30〜60日を要するため効力発生日の60〜90日前までに申請するのが安全圏。会社分割は合併と違い労働契約承継法の手続き(5条協議・7条措置・異議申出)が必須で、これを怠ると職人の離脱・経審の技術職員数目減りに直結する。経審は完全リセットではなく完成工事高等を一定ルールで承継。会社法手続きと並行し標準6〜9か月。 |
目次
建設業で会社分割を使う4つの典型場面
会社分割は、事業の一部または全部を切り出して別の会社に包括承継させるスキームです。建設業では、目的別に大きく4つの場面で活用されます。
| 場面 | 典型ケース | 会社分割を選ぶ理由 |
|---|---|---|
| グループ再編 | 1社で土木・建築・不動産賃貸を兼業 → 建設業部門を別会社に分離 | 許可事業と非許可事業を分け、管理・経審・与信を明確化 |
| 承継準備のための分離 | 不採算の関連事業を切り離し、健全な建設業部門だけを後継者へ | 株価評価の単純化、後継者の負担軽減、承継しやすい器づくり |
| M&Aでの事業切り出し | 買い手が、売り手の建設業部門だけを会社分割で取得 | 簿外債務・不要資産を引き継がず、許可・契約・雇用は包括承継 |
| 事業ポートフォリオ整理 | 採算の異なる工種・地域を別法人化してリスク遮断 | 一部門の業績悪化が全社の経審・与信に波及するのを防ぐ |
いずれの場面でも、会社分割は「会社法上の分割」と「建設業許可の承継認可」を並行設計する必要があり、純粋な会社法問題ではありません。建設業のM&A・承継スキーム全体の比較は建設業M&A完全ガイド、合併との違いは建設業の合併と承継認可、事業譲渡との違いは建設業の事業譲渡で許可を引き継ぐ方法もご参照ください。
吸収分割と新設分割 — 建設業でどちらを選ぶか
会社法上の定義
会社法では会社分割を次の2類型に整理しています(会社法第757条以下)。
| 類型 | 会社法上の定義 | 承継先 |
|---|---|---|
| 吸収分割 | 分割会社が、その事業に関する権利義務の全部または一部を、既存の他の会社に承継させる(会社法第757条) | 既存の承継会社 |
| 新設分割 | 分割会社が、その事業に関する権利義務の全部または一部を、分割により新たに設立する会社に承継させる(会社法第762条) | 新設会社 |
建設業での選択の判断軸
建設業では、目的によって吸収分割と新設分割を使い分けます。「どちらがクリーン」という一般論ではなく、許可・経審・受け皿の有無で決まります。
| 論点 | 吸収分割 | 新設分割 |
|---|---|---|
| 承継会社の建設業許可 | 承継会社が既に許可を保有していれば、承継認可で業種・体制を統合 | 新設会社で新規取得 or 承継認可。許可番号が新規発番 |
| 経審スコア | 承継会社の従前評点に分割対象部門の完成工事高等を合算・承継 | 新設会社で分割対象事業の実績を承継して組み立て |
| 入札参加資格 | 承継会社の指名願い・等級格付けを基礎に再評価 | 新設会社で改めて取得。等級認定までブランクが生じやすい |
| 主な用途 | グループ内の既存会社へ統合、M&Aの受け皿が既にある場合 | 後継者用の受け皿会社を新たに作る、建設業部門だけ独立させる |
新設分割は登記上は新しい器でクリーンに見えますが、建設業では新設会社の入札参加資格・経審の等級認定にブランクが生じやすく、過去の積み上げ実績が元請信用に直結するため、受け皿として既存会社が使えるなら吸収分割が有利なケースが多いのが実務感覚です。「新会社にすればしがらみがなくクリーン」という製造業・サービス業の発想は、建設業では入札・経審のリセットコストを見落とした危険な単純化になりがちです。
建設業許可の承継認可(事前認可)の手続き
承継認可の対象と効果
2020年10月施行の改正建設業法により、譲渡・合併・分割を対象とする事前認可(承継認可)制度が導入されました(建設業法第17条の2〜)。会社分割で建設業を承継する場合は、分割の効力発生日の前に許可行政庁から承継認可を受けることで、効力発生日に建設業許可がそのまま承継会社・新設会社へ引き継がれ、許可空白期間ゼロで事業を継続できます。
承継認可を受けずに分割を実行すると、承継させた建設業を承継会社・新設会社が無許可で行うことになり、軽微な工事を超える請負ができなくなります。これは事業の継続そのものを止めかねない致命的なリスクです。承継認可制度の全体像は建設業許可の承継認可 — 譲渡・合併・分割・相続の手続き完全ガイドを併読してください。
承継認可で確認される主な事項は次のとおりです。
- 承継会社・新設会社が、承継する業種ごとに建設業許可の要件を満たすこと
- 承継後の経営業務管理責任者・営業所技術者等の体制が継続的に確保されること
- 承継後の財産的基礎・誠実性・欠格要件非該当などの許可要件を満たすこと
- 分割対象事業に対応する技術者・実務経験が承継先に確保されること
申請から認可までの実務フロー
承継認可の実務フローは概ね次のとおりです。許可行政庁により細部の運用が異なるため、事前相談を活用します。
| 時期 | 作業内容 | 主体 |
|---|---|---|
| 分割90日前まで | 許可行政庁への事前相談・必要書類の確認・承継体制の確定 | 行政書士+経営者 |
| 分割60〜90日前 | 承継認可申請書の提出・受付 | 行政書士 |
| 分割45〜60日前 | 行政庁による書面審査・追加資料提出 | 行政書士+経営者 |
| 分割30日前 | 認可決定の通知 | 許可行政庁 |
| 分割効力発生日 | 分割登記+許可承継の効力発生 | 司法書士+行政書士 |
| 分割日以降30日以内 | 承継後の変更届出(営業所・役員等) | 行政書士 |
必要書類の概要
会社分割の承継認可申請書類は新規申請に近いボリュームになります。代表的なものは次のとおりです。
- 承継認可申請書(分割用様式)
- 分割契約書(吸収分割)または分割計画書(新設分割)の写し
- 分割会社・承継会社それぞれの直近の建設業許可申請書類一式
- 承継後の経営業務管理責任者・営業所技術者等の体制図と要件立証書類
- 承継後の財産的基礎を立証する貸借対照表・残高証明書
- 承継後の組織図・営業所一覧
- 役員の身分証明書・登記されていないことの証明書
- 取締役会議事録・株主総会議事録
会社分割に特有の論点①:労働契約承継法
会社分割が合併と決定的に異なるのが、労働契約承継法(会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律)に基づく労働者保護手続きが必須である点です。合併では従業員が包括承継されるだけですが、分割では「どの労働者が、どちらの会社に残るか/移るか」が生じるため、労働者を保護する特別な手続きが法定されています。建設業の現場では職長・職人の帰属意識が強く、ここを軽視すると分割後にキーパーソンが離脱し、経審の技術職員数(Z点)が目減りするという、許可・経審に直結する事故を招きます。
| 手続き | 内容 | 建設業での実務ポイント |
|---|---|---|
| 5条協議(商法等改正法附則5条) | 分割対象事業に従事する個々の労働者と、承継の有無や勤務先について事前に協議する | 現場の職長・営業所技術者等・経管候補者など、許可と経審のキーパーソンを最優先で個別協議 |
| 7条措置 | 全労働者の理解と協力を得るよう努める(過半数代表者等との協議) | 現場ごとの職人グループに分割の趣旨を説明し、処遇・建退共・出面ルールの継続を明示 |
| 労働者への書面通知 | 分割対象事業に主として従事する労働者等へ、承継の有無等を書面で通知 | 通知期限(株主総会の2週間前の前日まで等)を分割スケジュールに組み込む |
| 異議申出 | 主として従事する労働者が承継対象外とされた場合、または従事しない労働者が承継対象とされた場合に異議を申し出られる | 異議申出の結果で承継対象が変動し、経審の技術職員数が増減するため、設計段階でシミュレーション |
分割対象事業に「主として従事する」労働者は、原則として承継会社へ労働契約が承継されます。誰が「主として従事する」かの判定は、建設業では現場配属・工種・直近の従事実態で判断するため曖昧になりやすく、ここを行政書士・社労士・弁護士が連携して詰めておかないと、後日の労使トラブルや経審の技術職員カウント漏れにつながります。
会社分割に特有の論点②:債権者保護手続き
会社分割でも会社法上の債権者保護手続き(公告・知れたる債権者への個別催告・1か月以上の異議申述期間)が必要です。ただし合併と異なり、分割では「分割会社に残る債権者」と「承継会社へ移る債権者」で扱いが分かれ、すべての債権者に催告が必要なわけではないという複雑さがあります。一方で、不法行為債権者や、いわゆる詐害的会社分割(残された債権者を害する分割)に対しては、残存債権者が承継会社に直接履行請求できる規定が会社法に整備されており、「会社分割なら簿外債務を完全に遮断できる」という理解は誤りです。
建設業では、下請業者・資材業者・リース会社・金融機関に加えて、瑕疵担保・契約不適合責任を負う完成工事の発注者が潜在的な債権者になり得ます。分割で建設業部門を切り出す際、過去に施工した工事の契約不適合責任がどちらの会社に残るかは、債権者保護手続きと分割契約書の定めで明確化しておく必要があります。
会社分割後の経審の継続評価ルール
建設業法施行規則に基づく承継評価
会社分割に伴う経営事項審査も、建設業法施行規則に基づき完全リセットではなく承継評価される仕組みが整備されています。吸収分割では承継会社の従前評価に分割対象部門の実績を合算・承継し、新設分割では新設会社が分割対象事業の実績を承継して経審を組み立てます。完成工事高をどの範囲で承継できるか、直前3年の各事業年度の工事施工金額をどう按分するかが結果を大きく左右します。
| 経審項目 | 会社分割時の扱い |
|---|---|
| 完成工事高(X1点) | 分割対象事業に係る直前3年の業種別工事施工金額を承継先へ承継。分割会社側は減少するため双方の経審に影響 |
| 自己資本額・利益額(X2点) | 分割後の各社の貸借対照表に基づき再算定 |
| 技術職員数(Z点) | 承継される技術者を承継先でカウント。労働契約承継の結果と一致させる必要 |
| 経営状況分析(Y点) | 分割後の決算書に基づき登録経営状況分析機関で再分析 |
| その他評点(W点) | CCUS・建退共・若年技術者育成等の加点項目を承継先の体制で再評価 |
経審申請のタイミング設計
分割日と決算日が近接する場合、経審申請のタイミング設計が結果を大きく左右します。分割後の決算変更届を提出し、その後に経審申請という流れになりますが、分割前の経審と分割後の承継経審をどう接続するかで、入札参加資格の等級格付けに数か月のブランクが生じる可能性があります。公共工事の入札参加を継続したい場合は、この接続設計が最重要論点です。経審の基本は経営事項審査の記事、承継時に経審スコアを途切れさせない設計は事業承継で経審スコアを途切れさせない方法、CCUSの経審加点はCCUS経審加点の記事を併読してください。
経営業務管理責任者・営業所技術者等の引き継ぎ設計
会社分割の承継認可では、承継会社・新設会社が分割後も経営業務管理責任者・営業所技術者等の要件を継続的に満たすことが必須条件です。分割設計の初期段階で、人員配置を具体化する必要があります。
- 承継先で経営業務管理責任者(建設業の役員等として5年以上の経験)を確保できるか
- 承継する業種ごとに必要な営業所技術者等の資格・実務経験を承継先で網羅できるか
- 分割会社・承継会社の双方で、分割後も各社が許可要件を満たし続けられるか(分割会社側に許可を残す場合)
- キーパーソンの労働契約承継が、許可要件と経審の技術職員数の両面で整合しているか
特に新設分割で後継者の受け皿会社を作る場合、後継者本人が経管要件を満たすには、3〜5年前から取締役登記して経営経験を積ませる設計が必要です。経管交代と承継の関係は経管交代と事業承継、営業所技術者等の要件は専任技術者・営業所技術者等の要件、経管の要件は経営業務管理責任者の要件を参照してください。
会社分割プロジェクトの全体スケジュール(標準6〜9か月)
| フェーズ | 時期 | 主な作業 |
|---|---|---|
| 準備 | 分割9〜6か月前 | 分割目的の整理/吸収分割・新設分割の選択/分割対象事業の切り出し範囲の確定/建設業許可・経審シミュレーション |
| 設計 | 分割6〜4か月前 | 分割契約書・分割計画書のドラフト/取締役会決議/許可行政庁への事前相談/承継先の経管・技術者配置設計 |
| 申請・通知・公告 | 分割4〜2か月前 | 承継認可申請/事前開示書類の備置/株主総会招集通知/分割公告・債権者個別催告/労働契約承継法の労働者通知・5条協議 |
| 承認・異議 | 分割2〜1か月前 | 株主総会の特別決議/債権者異議申述期間(1か月以上)/労働者の異議申出期間/承継認可決定 |
| 効力発生 | 分割日 | 分割登記/許可承継の効力発生/取引先・元請通知 |
| 事後処理 | 分割後30日以内 | 変更届出(役員・営業所・商号等)/決算変更届の準備/経審申請のタイミング設計 |
分割後の変更届の整理は建設業許可の変更届完全ガイドを併読してください。
会社分割を行政書士に依頼するメリットと費用感
必要な専門家連携
建設業の会社分割は、行政書士(建設業許可・経審)、司法書士(分割登記・債権者保護手続き)、税理士(適格分割の税務・分割対価の設計)、弁護士(分割契約書・労働契約承継法対応)、社労士(労働者保護手続き・雇用条件)の5士業連携が必要なプロジェクトです。行政書士は承継認可と経審シミュレーションの中核を担当し、分割スキーム選択時の「許可・経審の承継可否」という制約条件を最も早い段階で提示する立場にあります。会社法・税務だけで設計を進め、許可承継を後回しにすると、分割直前に「承継先が許可要件を満たさず認可が下りない」という最悪の事態が起こり得ます。
費用感(当事務所目安)
| 業務内容 | 報酬目安 |
|---|---|
| 分割前DD(建設業許可・経審の承継可否診断) | 20〜40万円 |
| 承継認可申請(会社分割) | 30〜50万円 |
| 分割後の経審シミュレーション | 10〜20万円 |
| 分割後の変更届一式 | 15〜30万円 |
| 分割プロジェクト全体マネジメント(5士業調整含む) | 100〜200万円(規模により) |
分割プロジェクト全体(5士業合計)の費用は中堅企業で500〜2,000万円規模になります。事業承継・引継ぎ補助金「専門家活用枠」が活用できる場合があります。詳細は事業承継・引継ぎ補助金、承継スキーム全体での費用感は事業承継の費用総額シミュレーションを参照してください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 建設業の吸収分割と新設分割はどう違いますか?
吸収分割は、分割する建設業部門などを既存の別会社(承継会社)に承継させる形態です。新設分割は、分割と同時に新会社を設立してそこへ事業を承継させる形態です。建設業では、グループ内の既存会社に統合する場合は吸収分割、後継者用の受け皿会社を新たに作って建設業部門だけを切り出す場合は新設分割が選ばれます。いずれも承継会社・新設会社が建設業許可の要件を満たし、効力発生日の前に承継認可を受けなければ許可は引き継げません。
Q2. 会社分割で建設業許可は自動的に引き継げますか?
自動では引き継げません。2020年10月施行の改正建設業法により、譲渡・合併・分割を対象とする事前認可(承継認可)制度が導入されました(建設業法第17条の2〜)。会社分割では、分割の効力発生日の前に許可行政庁から承継認可を受ける必要があります。事前認可を受ければ効力発生日に許可がそのまま承継され、許可空白期間ゼロで事業を継続できます。受けずに分割すると、承継させた建設業を承継会社が無許可で行うことになり、軽微な工事を超える請負ができなくなります。
Q3. 会社分割の承継認可はいつまでに申請すればよいですか?
明文化された期限は「分割の効力発生日の前」ですが、実務上は審査に30〜60日を要するため、効力発生日の60〜90日前までに申請するのが安全圏です。会社法上の分割手続き(分割契約・計画の作成、取締役会決議、株主総会の特別決議、債権者保護手続き、労働契約承継法に基づく労働者保護手続き)と並行して進める必要があり、これらの最長日程に合わせて全体スケジュールを設計します。書類不備で差し戻されると分割そのものが延期になるため、行政書士による事前審査を強く推奨します。
Q4. 会社分割では従業員はどう引き継がれますか?合併と違いはありますか?
会社分割は合併と異なり、労働契約承継法に基づく労働者保護手続きが必要です。分割する事業に主として従事する労働者は原則として承継会社へ承継され、5条協議(個々の労働者との事前協議)、7条措置(全労働者の理解と協力、過半数代表者との協議)、労働者への書面通知、異議申出の手続きが求められます。建設業は現場の職長・職人の帰属意識が強いため、この手続きを丁寧に行わないと、分割後にキーパーソンが離脱し、経審の技術職員数の目減りを招きます。
Q5. 会社分割後の経審はどうなりますか?
会社分割でも建設業法施行規則に基づく経審の継続評価ルールがあり、完全リセットではありません。吸収分割では承継させる建設業部門の完成工事高・技術職員数等を承継会社の従前評価に合算・承継し、新設分割では新設会社が分割対象事業の実績を承継して経審を組み立てます。完成工事高をどの範囲で承継できるか、直前3年の工事施工金額をどう按分するかが複雑なため、分割設計段階での経審シミュレーションが不可欠です。
Q6. 会社分割と事業譲渡はどちらが有利ですか?
会社分割は会社法上の包括承継で、対象事業の許可・契約・債権債務・雇用が個別同意なしにまとめて移転します。事業譲渡は個別の権利義務を売買契約で移転する形態で、契約・雇用は原則として個別同意が必要です。簿外債務の遮断や許可・契約の一括移転を重視するなら分割、対象を細かく選別したいなら譲渡が向きます。ただし分割は債権者保護手続き・労働契約承継法の手続きが必要で、詐害的分割には残存債権者の直接請求規定があるため「分割なら債務を完全遮断できる」は誤りです。事業譲渡の詳細は建設業の事業譲渡で許可を引き継ぐ方法を参照してください。
Q7. 会社分割の標準スケジュールはどのくらいですか?
建設業の会社分割は標準で6〜9か月のプロジェクトです。準備(スキーム選択・切り出し範囲の確定)2〜3か月、設計(分割契約書・取締役会決議)1〜2か月、申請・通知・公告(承継認可・株主総会・債権者保護・労働者保護)2〜3か月、効力発生・事後処理1〜2か月の構成が典型です。労働契約承継法の労働者通知・異議申出期間がクリティカルパスになりやすいため、合併よりも労務手続きの日程管理がシビアになります。
Q8. M&Aで建設会社の一部だけを会社分割で買うことはできますか?
できます。買い手が新設分割または吸収分割で売り手の建設業部門だけを切り出して取得するスキームは、簿外債務や不要資産を引き継がずに許可・契約・雇用を包括承継できるため、M&Aで活用されます。ただし建設業許可は承継認可を効力発生日の前に取得する必要があり、買い手側(承継先)が経管・営業所技術者等・財産的基礎の要件を満たすことが前提です。買い手のデューデリジェンスでの確認項目は建設業M&Aデューデリジェンスの実務を参照してください。
まとめ — 建設業の会社分割は「許可・経審・労働承継・取引」の4戦線で同時設計
建設業の会社分割は、会社法上の分割手続きと建設業許可の承継認可、経審の継続評価、労働契約承継法に基づく労働者保護、取引先通知の4戦線で同時進行するオペレーションです。会社法と税務だけで考える税理士・コンサルからの提案では、建設業特有の許可・経審・労働承継・JV・建退共のリスクが見落とされがちです。
会社分割は「簿外債務を遮断してクリーンに事業だけ取得できる」と語られがちですが、詐害的分割には残存債権者の直接請求規定があり、労働契約承継法の手続きを怠れば職人の離脱と経審の技術職員数目減りに直結します。世間の単純化を鵜呑みにせず、許可・経審・労働承継を一体で設計することが、分割の成否を分けます。これは「知らないと損する」というレベルではなく、設計を誤れば事業継続が止まる論点です。
建設業界はIT化の遅れが指摘されますが、会社分割のような高度な再編では、その何倍も「専門家連携の不在」が放置されています。逆に言えば、5士業連携を仕組み化し、許可・経審の承継可否を最初に確定させるだけで、同業他社よりはるかに高い成功確率で分割を完遂できます。AIが普及しても、建設業許可・経審・承継認可の専門判断は代替されません。
当事務所では、会社分割プロジェクトの全体マネジメントから承継認可申請・経審シミュレーション・分割後の変更届まで一貫してサポートしています。「建設業部門だけを別会社に切り出したい」「不採算部門を分けて建設業を後継者に継がせたい」「M&Aで欲しい事業だけを会社分割で取得したい」といったご相談は、分割日の最低6か月前にご連絡ください。お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。
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