【2025年改正】建設業法の改正に関する解説

建設業許可

2024年6月7日、国会において「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」が可決・成立し、建設業法が大きく改正されました(令和6年法律第49号)。

この改正は、建設業の担い手を確保し、労働者の処遇改善を図ることを目的としています。本改正法は2025年に施行される予定であり、建設業界にとって非常に重要な法的変更となります。

建設業法の改正はなぜ必要だったのか?

日本の建設業は、インフラ整備や住宅、商業施設の建設において重要な役割を果たしてきました。しかし、近年の日本社会において、建設業は他産業と比較して賃金が低く、長時間労働が常態化しているという問題を抱えています。このような状況が続く中で、建設業への新規参入者が減少し、担い手の確保が困難となっていることが大きな課題となっています。特に、若年層の建設業離れが顕著であり、将来的にこの業界を支える人材が不足する懸念が高まっています。


参考URL:https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001493958.pdf

建設業就業者は、55歳以上が35.5%、29歳以下が12.0%となっており、高齢化が進行しています。

このような背景を受けて、政府は建設業の持続的な発展と担い手の確保を目的として、建設業法の改正に踏み切りました。今回の改正では、労働者の処遇改善、働き方改革、生産性の向上を中心に、建設業界全体の労働環境を大幅に改善することを目指しています。

建設業法改正の主な内容

今回の改正では、以下の3つのポイントが重要視されています。

1. 労働者の処遇改善(賃金引上げ)

今回の改正の最も重要なポイントは、労働者の処遇改善に関する措置です。具体的には、次のような変更が行われました。

(a) 労働者の処遇確保の努力義務化

建設業者は、その労働者が有する知識・技能その他の能力について公正に評価し、適正な賃金を支払うこと、そしてその他の労働者の適切な処遇を確保するための措置を講ずるよう努めなければならないとされました。この措置は努力義務として規定されており、法的な強制力はないものの、建設業者には労働者の処遇改善を積極的に進めることが期待されています。

(b) 標準労務費の勧告

国土交通省内に設置された中央建設業審議会には、建設工事における標準的な労務費に関する基準を作成し、その実施を勧告する権限が付与されました。この標準労務費の設定により、建設工事における労務費が適正に見積もられ、労働者が適切な報酬を受け取ることが期待されています。

(c) 著しく低い材料費等の見積り・見積り依頼の禁止

建設工事を請け負う建設業者は、材料費等や施工のために必要な経費について、著しく低い額で見積もりを行ったり、見積りを依頼したりすることが禁止されました。この規制は、材料費等のコストを適正に反映させることを目的としており、労務費の圧迫を防ぐための措置とされています。

(d) 受注者における原価割れ契約の禁止

建設業者が工事を請け負う際には、通常必要と認められる原価を下回る金額で契約を締結することが禁止されました。原価割れ契約は労働者の処遇に悪影響を及ぼす可能性があるため、この禁止規定が導入されました。

2. 資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止

近年、建設資材の価格が急騰する状況が続いており、その結果として労務費へのしわ寄せが問題視されています。今回の改正では、資材高騰時における対応策が強化されました。

(a) 受注者の注文者に対するリスク情報の提供義務化

建設工事を請け負う業者は、主要な資材の供給が著しく減少する恐れがある場合や、資材の価格が高騰する可能性がある場合には、その旨を注文者に通知しなければならないとされました。この規定により、発注者と受注者が事前にリスクを共有し、適切な対応を協議することが促されます。

(b) 請負代金の変更方法を契約書記載事項として明確化

建設工事の請負契約において、請負代金を変更する際の算定方法を契約書に明記することが義務化されました。これにより、資材価格の変動に対応した適切な価格改定が行われることが期待されます。

(c) 資材高騰時の変更協議へ誠実に応じる努力義務・義務の新設

資材価格の高騰が実際に発生した場合、建設業者は注文者に対して工期や請負代金の変更について協議を申し出ることができます。注文者は、正当な理由がない限り、これらの協議に誠実に応じる義務を負います。公共工事の場合には、発注者が協議に応じることが義務化されています。

3. 働き方改革と生産性向上(労働時間の適正化・現場管理の効率化)

働き方改革と生産性の向上も今回の改正の重要な柱となっています。特に、工期の適正化やICTの活用による現場管理の効率化が強調されています。

(a) 受注者における著しく短い工期による契約締結の禁止

従来から、注文者側が施工に通常必要と認められる期間に比して、著しく短い期間を工期とする契約を締結することが禁止されていましたが、今回の改正では、受注者側からも同様の禁止措置が導入されました。これにより、工期を不当に短縮することによる現場労働者への過剰な負担が軽減されることが期待されています。

(b) 現場技術者の専任義務の合理化

重要な建設工事においては、原則として専任の主任技術者や監理技術者を配置することが求められていますが、今回の改正により、ICTの活用を条件に専任義務が一部緩和されました。これにより、建設業者のコスト負担が軽減されるとともに、現場管理の効率化が促進されます。

(c) 公共工事発注者に対する施工体制台帳の提出義務を合理化

公共工事の発注者が情報通信技術を活用して工事現場の施工体制を確認できる場合には、施工体制台帳の提出義務が免除されることとなりました。これも、ICTを活用した現場管理の効率化を目指す措置の一環です。

(d) 効率的な現場管理の努力義務化・国による現場管理の指針作成

特定建設業者は、建設工事の適正な施工を確保するために、ICTの活用に関する必要な措置を講じる努力義務を負うこととなりました。また、国土交通大臣は、ICTの活用を含む効率的な現場管理の指針を作成し、公表することが求められています。これにより、建設業界全体で現場管理の標準化と効率化が進むことが期待されます。

今後の対応と準備

今回の建設業法改正により、建設業者は新たな規制に対応するための準備を進める必要があります。特に、労務費の適正化やICTの活用、契約書の見直しなど、様々な面での対応が求められます。

具体的な対応のポイント 標準労務費の確認および見積り等への反映

中央建設業審議会によって定められる標準労務費を確認し、それを見積りに適切に反映させることが必要です。

低すぎる見積りの是正

これまでの慣例で、低すぎる見積りを出す(あるいは依頼する)場合は、その慣行を見直し、適正な見積りを行うことが求められます。

資材の供給不足や高騰へのリスク管理

資材の供給不足や価格高騰に備え、リスク情報の提供フローを構築し、これを契約書に反映させる体制を整えることが必要です。

請負契約書の見直し

請負契約書のひな形において、請負代金を変更する際の金額の算定方法が定められていない場合は、その追加を行う必要があります。

工期の適正化

著しく短い工期での施工を受注する慣行がある場合、それを是正し、適切な工期を設定することが重要です。

現場管理におけるICTの活用

現場管理の効率化を図るため、ICTを活用した管理システムの導入や、既存システムの見直しを行いましょう。

社内研修と従業員への周知

建設業法の改正内容について、従業員に対する社内研修を実施し、法令遵守の重要性と新たな規定の詳細を周知徹底することが必要です。特に、請負代金の見積りや契約に関与する労働者には、改正の趣旨を十分に理解させ、適切な対応ができるように指導することが求められます。

結論

今回の建設業法改正は、建設業界における労働者の処遇改善と働き方改革を促進し、業界全体の持続可能な発展を目指したものです。これにより、建設業者は労働環境の改善や生産性の向上に向けた取り組みを強化する必要があります。また、建設業許可制度に基づく適正な業務運営と許可の維持・更新にも注意を払うことが求められます。

今後の展望としては、建設業界がこれらの規制を順守し、労働者が安心して働ける環境を整えることが重要です。それにより、建設業が地域社会における「守り手」としての役割を果たし続けることができるでしょう。事業者は、これらの改正点をしっかりと把握し、迅速に対応することが求められます。

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