建設業許可取得後の法人が直面するよくある問題

建設業許可を取得した法人は、安定的な事業運営が可能となり、公共工事への参入や信頼性の向上など、多くのメリットを享受することができます。しかし、許可を取得した後も、いくつかの問題や課題に直面することが少なくありません。許可取得はあくまでスタート地点であり、許可を維持し、事業を発展させていくためには、日々の業務において多くのルールや規制を遵守する必要があります。本稿では、建設業許可取得後の法人がよく直面する問題について詳しく解説します。

1. 許可の更新手続きと書類管理の煩雑さ

建設業許可は一度取得すれば永続的に有効というわけではなく、原則として5年ごとに更新手続きを行わなければなりません。この更新手続きにおいて、法人は多くの書類を整備し、申請時と同様の審査を受ける必要があります。経営業務の管理責任者や専任技術者の変更、経営状況の悪化、過去の違反歴などがあれば、更新が難しくなることもあります。

また、必要書類の保管や提出が適切に行われていないと、更新時に問題が生じる可能性があります。例えば、過去5年分の工事契約書や請求書、財務諸表、労働保険や社会保険の加入状況などの記録を適切に保存していないと、更新が遅れたり、最悪の場合は許可が失効してしまうリスクがあります。書類管理を徹底し、定期的に更新手続きを見据えた準備が必要です。

2. 専任技術者の不足による工事の制限

建設業許可を維持するためには、各事業所に専任技術者を配置する必要があります。専任技術者は、一定の経験や資格を持つ者でなければならず、特定の業種ごとに適切な資格や実務経験が求められます。しかし、建設業界では技術者の高齢化や若手の人材不足が深刻な問題となっており、必要な技術者を確保するのが難しい状況です。

特に、中小企業や地方の建設業者においては、技術者不足が原因で新しい工事を受注できなかったり、事業所の営業範囲を縮小せざるを得ないケースもあります。優秀な技術者の確保と育成が急務であり、法人としては技術者の雇用条件や福利厚生の見直し、研修制度の充実化を図ることが求められます。

3. コンプライアンス違反による罰則

建設業においては、許可を取得しているからといってすべての工事を自由に行えるわけではなく、法令や規則に従った適正な施工が求められます。特に、労働安全衛生法や下請法、建設業法など、多岐にわたる法令を遵守しなければなりません。しかし、忙しい日常業務の中でこうした法令を適切に管理しきれず、意図せず違反を犯してしまうケースが見られます。

例えば、下請業者との契約において適正な契約内容を守らなかったり、現場での安全対策が不十分であったりする場合、監督行政機関から指導や罰則を受けることがあります。こうした違反は、法人の信用を損なうだけでなく、場合によっては営業停止や許可取消しの処分が下されることもあります。コンプライアンスの徹底は、日々の業務においても最優先事項であり、適切な契約書の作成や現場管理、安全対策を強化することが不可欠です。

4. 経営事項審査(経審)の対応

建設業許可を取得している法人は、公共工事を請け負う際に「経営事項審査」(経審)を受ける必要があります。この審査は、法人の経営状況や施工実績、技術力などを評価し、一定の基準を満たしているかどうかを判断するためのものです。経審の結果が悪いと、公共工事の入札に参加できなくなったり、受注が制限されることがあります。

経審では、過去の施工実績や財務状況、労働者の安全管理体制など、多くの項目が審査されます。そのため、日々の経営管理が杜撰であったり、施工実績が乏しい場合、評価が低くなるリスクがあります。経審に向けた準備は、工事ごとの施工実績の整理や、財務体質の強化が求められ、経審を見据えた経営計画の策定が必要です。

5. 下請業者とのトラブル

建設業界では、元請業者が下請業者に工事を依頼する形態が一般的です。しかし、下請業者との契約や工事内容についてトラブルが発生することは少なくありません。特に、支払いの遅延や契約条件の不履行などが原因で、下請業者との関係が悪化するケースがあります。

このようなトラブルが発生すると、工事の進行が滞り、クライアントとの信頼関係にも悪影響を及ぼす可能性があります。また、下請法に違反するような不当な取引条件を強いると、法的なトラブルに発展することもあります。適切な契約書の作成や、明確な工期と支払い条件の設定、綿密なコミュニケーションが重要です。

6. 社会保険加入問題

最近では、社会保険の未加入問題が建設業界で大きな課題となっています。国土交通省は、公共工事を受注する際に、社会保険に未加入の業者に対して厳しい措置を取る方針を示しており、許可を受けた法人もこの問題に直面しています。社会保険未加入の業者は、元請業者からの受注が難しくなり、さらに罰則や行政指導の対象となる可能性もあります。

社会保険への適切な加入は、法人の責任として従業員の福利厚生を確保するだけでなく、公共工事への参入機会を広げるためにも不可欠です。労働者の権利を守り、健全な経営を行うためには、社内体制を整備し、社会保険への加入を徹底することが重要です。

7. 業種別許可の範囲に関する誤解

建設業許可には、複数の業種が存在し、法人が行える工事は許可を受けた業種に限られます。しかし、時折、法人が許可を受けていない業種の工事を請け負ってしまうケースがあります。例えば、建築一式工事の許可を持っていても、専門工事(電気工事や内装仕上工事など)を単独で請け負う場合には、別途その業種の許可が必要です。

この誤解により、許可を超えた工事を行った場合、無許可営業として罰則を受けることがあります。事前に工事の内容を正確に把握し、必要な許可範囲を確認することが重要です。業種別許可の範囲を正確に理解し、法的なリスクを回避するための注意が求められます。

まとめ

建設業許可を取得した法人は、事業の発展に向けて大きな一歩を踏み出したといえますが、その後も様々な課題や問題に直面します。許可の更新、技術者の確保、コンプライアンスの遵守、経営事項審査への対応など、日常的な業務管理が求められる中で、問題を未然に防ぐための体制整備が重要です。許可を維持し、安定的に事業を成長させるためには、常に最新の法令に精通し、内部管理を徹底することが成功の鍵となります。

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